今私が見ているのは、悲しみが消え失せ、憎しみも淀んでしまった彼女の瞳。私はその瞳を見る度、とても悲しかったし、あの時からずっと歯痒い思いをしていた。あの時、言い合いを始めた少女たちに一言でも声を掛けてやれたなら。私もが好きだと言えたなら。あの時から見られなくなってしまった彼女の愛らしい笑顔を、今も見られたのかもしれない。ずっとそう思っていた。


 「オビのことが好きなんだって!」
 「私はジェダイだ!そんな感情なんてない!」
 「だってさっきそうやって言ってたじゃない」
 「煩い!」

 僕の目の前の少女二人は、ついに取っ組み合いを始めた。と言っても少女の喧嘩であるからそこまで酷いものではなかった。それでも僕は止めることもはやし立てることもできず、わたわたと二人の少女の表情を交互に伺うだけ。取り分け、僕のことが好きだという少女の表情が気掛かりだった。
 騒ぎを聞きつけたのかマスター・ウィンドゥが少女たちを引き離した。彼女たちはそれぞれの言い分を彼に伝える。しかし彼は優しく彼女たちを諭す。

 「人の大切な気持ちを軽々しく口にするのは悪いことだ。だが君も今回のことで分かっただろう」

 まず告げ口をした少女を諭したマスター・ウィンドゥは姿勢をもう一方の少女に変えた。対峙した少女は僅かに涙を潤ませ、それを堪えるかのように唇を硬く摘むんでいた。

 「例え人を想う気持ちであっても弱みになってしまうのだ。時にそれが命取りにもなりかねない」

 静かに返事をした少女は、とても寂しそうな顔をしていた。そしてその中に、悔しそうな表情も見えた。目の前にいる、今までは何でも話せる親友だった相手を恨んでいるかのような。

 「そんなこともあったわね」

 ややあってそんな話をしていた。新しい任務を任された私たちは輸送船に乗っていた。ラウンジで飲み物を飲みながら、彼女は私から視線を外して小惑星や流れてくる隕石を見ていた。

 「例えば私が敵に囚われた時、わざわざ君は危険を冒してまで救助しなくていい」
 「評議会が要請すれば出動するまで」
 「いや、違うんだ…私が言いたいのはだな…」

 続く言葉を出せずにもごもごと口ごもるオビ=ワンには振り返った。憂いを浮かべた瞳に見据えられる。切羽詰まる。

 「私の戯言だと思ってくれ。あの時も今も君のことが好きだ」

 言い切ったオビ=ワンは手に持った水を一気に飲み干した。これがアルコールだったならよかったのにと、目を伏せた。恐ろしくて彼女の表情は見られない。しかし自分のこの発言で、彼女の心と表情が少しでも柔和になってくれたなら、他に望むことはないと思った。


無意味で柔らかい語感