ワンルームマンションの狭い部屋にインターフォンのチャイムが響く。そんなものが鳴らずとも、私は彼の往来を把握している。あの車の排気音でもそうだし、コンクリートの廊下を歩く足音で彼だとすぐに解る。それに、そもそもは私が呼び付けたようなものだし。
、開けろ。大丈夫か」
 合い鍵は渡してある。それを見越してわざわざ意味のないチェーンをかけている。
 いつまで彼がこうして私の呼び付けに応えるのかはわからない。それでも彼を振り回したくなる。それによって自分の価値を見出そうとしている。その反面、いつでも見捨ててくれたらいいのにと、自虐的な気持ちで何故か期待もしていた。
 ゆっくりとカーテンを開け、マンションの前の道の路肩に止められた車を見やる。その車を避ける為に減速する車のブレーキランプが夜露に濡れたアスファルトを禍々しく写し出す。その色は、私の手首から滴る体液と同じ色をしている。
「あなたが来てくれたから、大丈夫」
 私はティッシュケースから素早く2、3枚のティッシュを引き抜き、手首に宛がった。僅かにヒリヒリとした刺激がして、しかしそれも苦ではない。
 ドアを開けたところで迷惑そうな顔をして立っている彼の表情を見て、私は満足する。普通だったらその表情に呆れられるのではないかと想像させられるだろうが、私のこの自信はどこからやってくるのだろう。「見せてみろ」と言い私の傷だらけの腕を取り上げる毅に、私の胸は疼くばかりだった。
title:Is it out of order ?