適当にカーオーディオに飲み込ませたCDは、聞き覚えのある音楽を排出させた。ああ、と、悲しい訳でも怒りが沸く訳でもなく、じんわりと体の中を満たしていく感情はなんと呼べばいいのかわからなかった。毅の車の中で、よく流れていた曲だ。それだけが頭の中で言葉になっただけだった。
 夜勤明けの疲れた体にその音は痛く馴染んで、睡眠を欲しがる私の体に重くのしかかる。
 別にこの音楽に特別思い入れがあって聞いていた訳ではない。彼も同じようなことを言ってた。会社の人が布教用CDを無理やり押し付けてきたと言っていた。しかし、この音楽を聴くだけで、私はこんなにも彼の言葉だったり表情だったり香りだったりを思い出している。彼といた時間とその情景すべてが、私の中でずっとずっと静かな、家電製品の待機音のように鳴り続けている。
20141221