太刀を携え、私は正座をして襖の横に座っていた。それはまるで殿と側室の情事を傍で見守る使いのようで、襖の向こうでは女の艶のある声と、愛を囁く男の声が静かに行灯の影を揺らしている。
 ぎちぎちと柄を握り締める音が聞こえないようにと代わりに噛み締めた歯が僅かに音を立てる。襖の向こうで女を組み敷いている五右ェ門は、傍に私がいることを覚えているのだろうか。そして私が今から、不覚にも彼の愛してしまった獲物を殺すことを覚えているのだろうか。もしかしたら、それを知っているから、最期だと言わんばかりに彼女を愛してやっているのかもしれない。きっとこの仕事を終える頃には、この襖が私たちを隔てるように、彼は私の望みをいっそう遠ざけていくのだろう。
 二人の声が止んで、そっと襖の隙間から覗き込めば、五右ェ門が組み敷いていた女の腕を引くようにして彼女の体勢を起こしていた。そうすれば彼女は五右ェ門と繋がったままの状態で彼の腹の上にはしたなく脚を開いて座るのだ。こちらから見れば女んl背中が見えるだけだったが、今五右ェ門はどんな景色を見ているのだろうと、僅かに考えて私は襖を素早く開けると女の背中に太刀を突き刺した。
 胸から刀を生やした女の白い肌に鮮血が流れ、それが五右ェ門にもかかる。彼女の身体に差し込まれた太刀をずるりと抜き取る。そうすれば彼女は五右ェ門の胸板へパタリと倒れ、鮮血はみるみるうちに五右ェ門と布団を飲み込んでいく。私は立ち上がり、血に濡れた太刀を下ろした。

「お風呂沸かして待ってるわ」

 五右ェ門は何も言わなかった。何も言わないことが、ただ骸となった女への愛を語っているように思えて、私は屋敷を出てから一人泣いた。彼に愛してもらえるなら、例え死ぬことが決まっていてもあの女の入れ替われるのならそうしたかった。


20150207 天球映写機