コンドームを外したペニスは精子の臭いと少しのゴムの臭いが混ざっていた。私はそれを躊躇なく口に含んで舌を使い、ペニスにまとわりついている精子を舐めとる。
 ふと視線を上げれば、まだ射精して間もない彼は、精子を舐めとられる刺激に耐えるように眉間に皺を寄せていた。

「斑目さん」

 私は彼の名前を呼んだ。普通、ここに来る人を名前で呼んだりしない。だってここはソープランドだから。
 でも彼は何度かここへ来てくれている。そして私を指名してくれる。
 彼の童貞を頂いたのも私だ。初めてセックスした時のことは、ちゃんと覚えている。

「あの……好きです」

 精子をすべて舐め終え、最後に鈴口を軽く吸った。
 視界の端に、彼の履いていたセンスのないトランクスが畳まれて置かれているのが見える。そのほかの衣服も、私が畳んでソファの上に置いたのだ。
 今時トランクスを履いているなんて、少数派だ。こういう職だから、男がどんな下着を着ているかはよく知っている。
 トランクスだけじゃない。服装からも容易に想像できるけれど、本当に彼は身なりに無頓着なのだ。初めて彼を見た時も、見るからに女性に不慣れなのだということがすぐにわかった。
 だから、こうしてでしか女の子と接することができず、それも最初に相手をした私としかしない。

ちゃん、仕事だからってそんな嘘言わなくてもいいんだよ」
「嘘じゃないです!本当に斑目さんのことが好き、なんです」

 やはりこうした職業だ、そう思われても仕方がない。
 彼が初めて生の女の裸を見たと言った時の反応や、それこそ彼の身体を愛撫して快楽を与えた時の反応は最初は可愛いなと思った。
 しかし以後も彼は私だけを指名した。それは他のソープ嬢と初対面で一から始めるより気が楽だったから、という理由からかもしれない。
 しかし私はそのことに『選ばれたのだ』と喜びを感じ、回を重ねるごとに解けてゆく彼の身体に嬉しさを覚えた。自然なことではないのだろうか?

「俺がオタクだって知って馬鹿にしてるんじゃないの?」
「違います!」
「俺は三次元には興味ないし、もし興味あったにしてもこんなソー」

 彼はそこまで言って言葉を止めた。自分でも地雷を踏みかけたと思ったのだろう。しかし、もうつま先くらいは地雷にかかっている。

「そうですよね。こんなソープ嬢なんて嫌ですよね」

 急に、空気に晒されたままの乳房に恥ずかしさを覚えて、手を伸ばした先にあったベビードールをかぶった。それでもシフォンの素材に乳首が透けて見えてしまうのは防げず、腕で身体を隠した。
 目の前にある斑目さんのペニスもだんだんと小さくなってきていた。しかし彼は服を着るにも少し離れたソファまで手を伸ばさなければいけない。
 それを今の空気がさせずにいる。
 本来ならまだ時間があるから、一緒にシャワーを浴びるところだが、今日はこのままお開きになりそうだ。

「変なこと言ってすみません。でも本当に好きなんです」
「でもさ、もし本当に俺のこと好きだったとしても、好きな人がいるのに、他の人にも、俺にしたようなこと、してる訳だよね」

 胸がズキンと痛んだ。何も言い返せないと思った。
 何も言えずに、安っぽいベビードールを着た私の横を通り過ぎて斑目さんはソファからトランクスを履いて着替え始めた。
 センスのないチェック柄のトランクスを履いた痩せた背中を見ていたら、途端に虚しくなった。

「斑目さんこそ、素人とヤれないからって、私みたいなソープ嬢とヤってるんだから、偉そうに言わないでよ」

 好きだなんて思った自分が馬鹿だと思った。ただの勘違いだと思った。
 他の自己中心的な客と比べて温和な斑目さんを贔屓目で見てしまっていただけなんだと、きっとそうなんだと。そうでもなければ、こんな痩せたダサいオタク男を好きになる訳がないと。

 斑目さんは何も言い返さなかった。
 部屋から出て行く斑目さんを見送った私は、一人でシャワーを浴びた。斑目さんの唾液や体液がついているであろう箇所を念入りに洗った。
 それから間もなく、次に来た客と、交わる必要もないのに膣をペニスで埋め尽くし、心地よくもないのに嬌声をあげた。
 一刻も早く、身体と心から彼の名残りを消し去りたかった。


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20180628