僕が生まれてほどなくして起こったホグワーツの戦いで、僕の両親は死んでしまった。それでも僕は両親の友人や知人に暖かく迎えられて、両親がいないことになんら苦もなく生きてこられた。それでもやはり、写真で見たことはあってもお互いの生きた目で見つめあったことのない両親のことを考えない訳でもない。世話をみてくれる人たちから両親の生前の話は聞くものの、なにもかもが僕の中で絵本や小説の中のことのように思えて。大きくなってわかってきたけれど、残された小さな坊やに、その両親の生前の悪態を誰が教えるだろう。
 ますます大きくなった僕に、そんな疑問を再び思わせるようなことが起こった。僕の知らない女の人が死んだと、僕の周りの人が騒いでいた。数日後に葬儀があるからと。その様子を見ると、僕の世話をしてくれている人たちの間ではよく知れた人のようだった。大人たちが妙な面持ちで話をするのが鬱陶しいと思う年頃になった僕は、知らせを届けにきたウィーズリーさんとアンドロメダおばあちゃんのいる居間から自分の部屋へと上がって行った。上がって行って、その途中の階段で、リーマスという、僕の父親の名前が聞こえて、僕は立ち止まった。それに、という、死んだ女性の名前も聞こえた。二人は若いころ、恋人だったそうだ。今更そんなことを知っても、父親のことだって何一つ思い出や記憶がないのに、とても不思議な気分になった。僕だって恋をしない訳じゃない。あの感情はわかっている。聞こえてきた、若いころの父親とその恋人の話。その恋人は僕の母親ではない。その3人の存在をどれも知らないのに、3人目の女性のことが気になって仕方がなかった。僕は彼女の葬式に出たいと思った。葬式に出たところで、当の本人はもう言葉を発することはできないのに。
 向かった教会の祭壇の上で横たえる女性は、思っていたよりもずっと若くて、瞼を下しているからその瞳の色はわからなかった。それでも、自分の過去に関係のある人物を初めて、形のある姿で目視したという感覚を直感的に感じて、目の前で息絶えているのは何も知らない人間なのに、涙が零れそうになった。写真でしか見たことのない父親はこの女性と恋をして、なんらかのことがあってその恋が終わり、母親と一緒になって、僕が生まれた。目の前の女性に同情するも、彼女の存在が父の中に残っていたなら、きっと僕はこの世に存在しないのだ。
 父さん、今、父さんは雲の上でこの女性に再会できたのかい。だとしたら、この女性と何を話してるんだい。母さんを蔑ろにしていたりしないかい。この女性と一緒にいられなかった自分を悔いてはいないかい。そのことで僕に申し訳ないと思わなくてもいいんだ。どうせそうなったら、僕はこの世に生まれてきていないから、こんな複雑な心境にだってならないのだから。


パパがママじゃない人とをしていた頃